2020年1月17日(金)からYEBISU GARDEN CINEMAで公開中の『イヴの総て』の上映に合わせ、同18日(土)の本編上映後、女優の霧矢大夢さんを招いたトークショーを実施いたしました。司会進行はライターの兵藤あおみさん。その模様をダイジェストでお届けします!
兵藤)まずは『イヴの総て』をご覧になっていかがでしたか?
霧矢)すごいドラマですよね。私は主演のリリー・ジェームズをドラマの『ダウントン・アビー』で知っていて。でもドラマは吹替で観ていたし、彼女の役は若い女の子らしく溌剌とした話し方をするキャラクターだったので、今回『イヴの総て』を観て初めて彼女のほんとの声を聴けたし、したたかな女優役の姿にも驚きました。
兵藤)他にリリーが出演した映画や舞台をご覧になったことがありますか?
霧矢)ええ、映画では『シンデレラ』や『ウィストン・チャーチル』を。活躍していますよね。
兵藤)リリー演じるイヴはいかがでしたか?
霧矢)もう最高でしたね! 何なんでしょうね、あの魅力……。最初の名前を名乗るところから「イ〜ヴ・・・ハーリントン・・・」ってね、言い方が抜け抜けしくて。「そんな言い方しなくても!」みたいな(笑)。
あと、この舞台の見どころの一つだと感じたのは、特徴的なカメラの使われ方ですね。鏡に映っている姿を余すことなく映し出すシーンや、大女優マーゴがメイクを落としていき、一方では自分の旦那と若い女の子が話しているところを映すところなど、バックステージのなかなか見ることができないシーンを映すとか。あの演出はすごかったです。あとマーゴのシワが増えていくところやイヴの顔がマーゴになっていったりなど。ロンドンで上演されている舞台って、役者と映像の融合が素晴らしい。アナログな演劇的技法を使うところもあれば、映像を駆使した魔法のような演出もあったり。
兵藤)マーゴ役のジリアンはいかがでしたか?
霧矢)ジリアン・アンダーソン、『X—ファイル』を観ていましたよ。彼女が、こういった舞台もしっかりできる役者であり、歌も歌い、やっぱり向こうの役者さんはみんな基礎ができているなって思いました。
兵藤)他のキャラクターで印象的だったのは?
霧矢)狂言回し的な役目を果たしている劇評家のアディソン。それと、劇作家の妻で友人のカレン。アディソンはオシャレで悪くて小気味いい。ああいう男性役には惹かれちゃいますね。どの役者さんも、洗面所やキッチンなどプライベートな空間で追い詰められるような芝居をしたと思ったら、サッと切り替えて社交場へと戻っていく。その凄さ――緊張感の高さや集中力の途切れなさなど――出ている役者さん全員、さすがだなぁって。だからあれだけ白熱したドラマが繰り広げられるんだなぁって思いました。いつもNTLiveを見るたびに悔しくなります。役者全員が才能豊かで、演出もすごい。なかなか日本ではできないものを見せられるから。
兵藤)あの場に入れるなら、どの役がやりたいですか?
霧矢)キャラクターではアディソンに惹かれるけれど、女性の役なら付き人のバーディとか?実はいい役。イギリスの俳優さんたちは、脇役の方も本当に素晴らしくて。舞台は脇役の方の上手さが重要なんですよ。
兵藤)イヴのマーゴに対しての強い憧れほどはなくても、どなたか憧れた役者さんはいますか?
霧矢)若い頃は身近な役者さんの良いところを見習おうという気持ちがあったけれど、今は誰か他の人に憧れるというよりは、自分がどうありたいかを考えるようになりました。ただ、「もっとあの方から学ばせて頂きたかった」と思ったのが、去年亡くなられた江波杏子さんですね。宝塚退団後、ミュージカルで共演して以来、プライベートでもかわいがって頂きました。江波さんといえば一時代を築いた女優さんですけど、亡くなるその日まで女優という仕事にプライドを持ちつつ、実生活では一人暮らしの孤独や焦燥感をすべて受け入れ、前向きに生活されている姿がとてもカッコよかった。「こんな風に女優を続けながら年を重ねて行きたいな」と、指針と思える方でした。今もネガティブなことがあった際は「江波さんだったらこう私に言ってくださるだろう」とか思うことがあります。
兵藤)マーゴを通し描かれる、女優や女性の加齢に対する不安も本作の大きなテーマの一つ。霧矢さんは女優としてポジティブな歳の取り方をしている方と出会え、幸運でしたね。
霧矢)そうですね。女優役は、年齢的なこと、外見的なこと、世間からの見られ方など、結局そういったテーマに行き着くことが多いんです。『イヴの総て』はその最たるもので。女優をしていれば常に鏡と向き合い、いかに自分の欠点を隠すかとか、逆にどう出していくかとか、葛藤し続けなくてはならない。別にそれは女優という職業に限らず、どんな職業の人にも言えることですよね。それぞれに社会の中での自分の立ち位置がありますし。世間の中での男と女という立ち位置とか。みんなに共通する問題なのかもしれません。私の場合、最近は今の年齢だからこそできる役柄がくることが多く、そういった役を演じることで、自分自身とも向き合うことができる。役者としては今がすごく面白い年代なんだと感じています。
兵藤)そんな霧矢さんの次回作『メアリー・ステュアート』が間もなく開幕します。
霧矢)16世紀スコットランドの女王メアリー・ステュアートとイングランド女王エリザベス一世の話なんですけど、私はメアリーを演じます。二人の相反する女性を描いた話で、エリザベス1世は仕事に生きるタイプでメアリー・ステュアートは結婚して子供もいるけど、それなりの苦労がある。女としての生き方の葛藤や戦いがドロドロに描かれていて、『イヴの総て』に通じるものがあるんです。しかも、メアリーが3番目に結婚する男性が『イヴの総て』のアディソンみたいなタイプで。最初はいい感じでサポートしてくれるのに最後は「おまえは俺のものだ」みたいに力でねじ伏せてくるんです! 『イヴの総て』を見ながら「あ、同じだ!」って思いました(笑)。どの時代もあるんですよね、力を持つ人に屈さなくてはならないとか、そういう人がいないと引き上げてもらえないとかっていう、男と女の微妙な関係が。マーゴも仕事とプライベートの充実との狭間で悩んだりしていたけど、エリザベス1世も一緒で。女性たちの誰しもが感じる悩みみたいな部分が描かれている作品なので、ぜひ観に来てください。
『メアリー・ステュアート』
2020年2月9日(日)まで、赤坂レッドシアターにて上演中
『メアリー・ステュアート』公演情報HP
http://www.ae-on.co.jp/unrato
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